2014年09月09日

あまりの面白さに、寝食わすれ読み耽ってしまった。

「ジョン・ハンター」ってだれ?ならおめでとう。
「ダーウィン」は知ってるが「ハンター」は知らないなら、なおよろしい。心ゆくまでのたうち回っていただきたい。

「ダーウィン」が「種の起原」を発表して世界に激震をもたらした、その70年も前に、一人の解剖医が既に「進化論」に辿り着いていた。

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)
ウェンディ・ムーア
河出書房新社
2013-08-06



18世紀、ロンドン。

ロンドンの街が寝静まった頃、夜な夜な墓場を掘り起こしては死体をかっぱらい、自室にこもって解剖し続けた男。彼こそが現代医学の父「ジョン・ハンター」である。いや、ハンターの発見は医学のみならず、地質学、生物学など多岐にわたって、現在の考え方の基礎となるような重要な発見を次々としている。

例えば、ハンターは化石もコレクションしていた。その化石が発見された地層のかけらを並べてみて、いつも同じ地層から化石が見つかることに気がついた。また、長期間にわたる水による浸食と堆積がどんな地形を作るかを考察し、現在のベルギーやオランダにあたる北海沿岸の低地帯はかつて海だったことと、テムズ川渓谷もその一部だったことを突き止めた。地質学の父と称される「ウイリアムスミス」が発表する20年も前に。

例えば、18世紀の医学は古代ローマ時代からほとんど発展が見られない古典的なものだった。治療といえば下剤を飲ませるか、あるいは血を抜くか。当時はまだ「悪い血」を抜くのが良しとされる時代だった。また、衛生という概念そのものもなかった。そんな時代にハンターは論理的に死後一時間以内に蘇生法を実施すれば、生き返らせる事も可能なはずだと主張した。実際その蘇生法は現在では誰もが知っている気道を確保して、鼻と口から息を吹き込むアレだ。これが常識として定着するのに200年かかっている。さらに驚くべきことに心臓に電気を使えば蘇生するはずだと推察し、1774年に成功例が記録されている。こちらも常識になるまでに200年だ。

こんな面白い話もある。

ハンターは人体はもちろん、動物、植物問わずあらゆる生物を解剖し、観察し続けた。その経験からハンターは全ての事象は複雑化(進化論)に向かっていることに気がついた。そこで頭蓋骨を段階的に並べてみて、辿り着いた結論を新聞に発表した。

「我々の最初の祖先、アダムとイブは明らかに黒人だった。最初に黒人を創造したのだから神は黒人だったはずだ」

「神は黒人」のくだりはハンターのブラックユーモアだろう。神が生物を作ったという考えが定説だった時代に、ハンターは自然が生物を作ったと確信していたのだから。
しかしこの発言は、18世紀のロンドンにおいて、あまりに過激すぎる内容だった。白人至上主義の中でこんな事を言う人間なのだ。当然理解されず保守的な医者らから批判本を多く出版された。このエピソードにもハンターが世に出なかった理由が窺い知れるだろう。

アダムとイブが黒人だったと証明されたのは、20世紀後半も後半、つい数十年前のはなしだ。

ハンターの論文を一部引用させていただく。
もっとも完全な動物である人間のすべての部分が、そもそもの最初からどの時点でどう増やされ、変更され、完成品となったのかを追跡することが万一かなうのであれば、それぞれの部分を不完全な動物の部分と比較して、変化の順序と時期を特定したいものである。言い換えるならば、より不完全なものから完全なものまでの一連の変化を順を追ってとらえることができるのであれば、不完全な動物は完全な動物のどこかの段階にあてはまるということが証明できるはずである。

犬と人間の胎児が似ていることを観察し、同一の祖先から発展してきたと確信をもったハンター。1871年にダーウィンが「人間の由来」にて、確信はないとしながらも発表するはるか前に、ハンターは断言しているのだ。

ハンターの異常なまでの先見性がわかってもらえただろうか。

実は本書の“のたうち回る”ほどの面白さは彼の偉業の数々ではない。ほんとうの面白さはそのプライベートにある。この偉人の日常ってどんなんだろうと興味を持っていただけたら幸い。

妊婦の腹の中を解剖したくてたまらないハンターが臨月を迎えた死体を探し求める第4章「妊婦の子宮」や、18世紀伝説の巨人(身長243cm)として一躍有名となったチャールズバーンの噂を聞いて、その死体が欲しくて生前交渉を計って翻弄する第13章「巨人の骨」など、奇人扱いも無理はないなと納得できるし、現代に生きていればサイコパス認定間違いなしである。

というか、何らかの人格障害はあったんだろうなあ、と思う。

多少のグロ耐性は必要だ。感受性豊かな人であれば吐き気を催す描写もなかにはある。実際、最初に書いた「寝食を忘れて〜」の「食う」については食欲が湧いてこなかったのだ。

さいごに各章のタイトルを。
第1章「御者の膝」
第2章「死人の腕」
第3章「墓泥棒の手」
第4章「妊婦の子宮」
第5章「教授の睾丸」
第6章「トカゲの尻尾」
第7章「煙突掃除夫の歯」
第8章「乙女の青痣」
第9章「外科医のペニス」
第10章「カンガルーの頭蓋骨」
第11章「電気魚の発電器官」
第12章「司祭の首」
第13章「巨人の骨」
第14章「詩人の足」
第15章「猿の頭蓋骨」
第16章「解剖学者の心臓」

こんな面白い伝記はなかなかない。
本気でオススメ。
ぶっ飛んでる。

座頭魄市orejiru at 22:21│コメント(0)トラックバック(0) │ このエントリーをはてなブックマークに追加

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
最新記事
記事検索