2014年05月05日

2014年ベスト1映画になるかもしれない。

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イランの監督アスガル・ファルハーディー作品。

アスガル・ファルハーディーの映画は日本で公開されているものとしてはこれが3作品目となります。
前作の「別離」は昨年鑑賞、2013年の上半期ベストとブログで紹介しました。
世界中で賞を獲得、最終的には90冠。化け物映画です。
http://takushi.blog.jp/archives/51942529.html
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今回の新作でアスガル・ファルハーディーが今もっとも注目すべき監督であることを確信しました。この才能、ちょっとただ事じゃない。

前回の「別離」に続いて、今回の作品も「離婚をむかえる夫婦」のドラマです。

映画は、マリーが空港のラウンジで、一人の男性が到着するのを待つシーンから始まります。飛行機から降り立った男性はイラン人のアーマド。二人はマリーの車に乗り込んで走り出します。その社内での会話で、二人の関係がなんとなく浮かび上がってくるんですね。

二人は夫婦なんですが、何年も別居していて、今回、離婚の手続きを行なうためにアーマドはイランからフランスに渡ってきたのがわかってくるんです。

マリーは二人の子どもを育てているんですが、アーマドさんとの子ではなくて、前の夫との子。つまりマリーにとっては2回目の結婚が破綻したところです。

車中での会話で、どうやらマリーには子連れの彼氏がいて、その彼氏と結婚するつもりだってのがわかってきます。ひとつひとつの会話がちょっと重いんですよ、この映画。

で、車が向かう先は長女のリュシーの通う学校で、迎えにいくところなんですが、ちょっとぎこちない空気が車の中に広がるんですね。マリーは子どもとうまくいってないんですよ。リュシーは母親のことが嫌いなんだけど、何年も会っていないアーマドのことは好きみたいで。

結局迎えに行ったのに、リュシーは勝手に一人で帰っちゃった後だったみたいで、空振りに終わるんですね。

家に到着すると小さな子どもは庭で遊んでいて、アーマドは子どもと一緒に遊ぶんです。マリーはすぐに家に入っちゃうんですけど。

この辺りからアーマドの性格がだんだん見えてくるんですよ。子どもが好きで、真面目な男性なんですね。一方マリーは感情の起伏が激しい激情型な女性なのが分かってくるんです。

家の内装用ペンキを子どもが遊んでこぼしちゃうんですけど、マリーは激怒して子どもに怒鳴り声をあげるんですよ。それで子ども部屋に閉じ込めちゃうんです。でもアーマドは穏やかな態度で「僕が片付けるからいいよ」ってたしなめるんですよ。

マリーがちょっとおかしな女性だと感じるところは他にもあって、「彼氏も今日泊まるから」ってアーマドに言うんですよ。離婚するとはいえ、現状では夫であるアーマドと、次の夫候補の、サミールって名前の彼氏なんですが、サミールとその子どもと、ひとつ屋根の部屋で過ごそうとするんですね。

これは僕の偏見ではなくて、ごく一般的によく言われることですが、「フランス人女性は気が強く、相手の気持ちを考えない」とされてますよね。もう典型的な「フランス」なんですよ。

一方のイラン男性の特徴は「優しくて親切、嘘は絶対つかない」とされてます。アーマドも典型的な「イラン」なんですね。

長女のリュシーちゃんはスゴい可愛らしい顔をした女の子なんですが、アーマドに秘密を漏らすんです。新しい彼氏のサミールの奥さんは、実は自殺未遂をして植物状態なんですね。その自殺の原因が母親のマリーにあるって告白するんですよ。

どういう事かというと、マリーとサミール、不倫していたんですね。そしてサミールの奥さんは、その不倫の事実を知ってしまった。そして失望して、自殺してしまったって言うんですよ。

マリーはそういった事実をなかったように振る舞う「未来」だけを見つめている人。

サミールは毎日病室を訪れて奥さんに話し掛け続ける「過去」に縛られてしまった人。

アーマドはそんな二人の「現在」をただ見つめる人。

このように「過去」「現在」「未来」のそれぞれ別々を見つめる人たちが、複雑に絡み合っていく映画なんですよ。

それともうひとつ。

この映画を見るなら、あたまに入れておいてほしいんですが、監督のアスガル・ファルハーディーは1972年うまれのイラン人です。つまり彼のバックグラウンドには「コーラン」があるはずなんですよ。

イランでは1963年に白色革命が起こっているんです。これはイランの第2代国王パフラヴィー2世がイランの西欧化を提唱して始まった革命です。米国ケネディ政権から改革要求をずっと受けたことで起こったんですけども。

当時、イラン人の文盲率は95%と言われていて、教育の向上が必要でした。これを50%まで落としたんです。また、女性参政権も導入されました。それと一夫多妻制から一夫一妻制に切り替えていったんですね。

けれどこの改革が根っからのイスラム支持層に受け入れられなかったんです。それに近代化に必要な基礎構造がまだ整ってなかったので、下層階級の市民は生活が悪化してしまったんです。

そうした不満がたまって、1979年にイラン(イスラム)革命が起こるんです。乱暴に説明すると、白人の近代的考えよりも、本来の伝統的イスラムの教え(コーラン)が一番だろって革命です。

白色革命の時代に青年期を過ごしたであろう父親に育てられ、自身が7歳の頃にイラン(イスラム)革命の時代を生きているんですよ。

これ、強烈な体験ですよ。

アスガル・ファルハーディー自身のインタビューは、なかなか見つからないので憶測でしかないんですけども、リベラルと保守の間で揺れる激動のイランで育った彼は、対立する価値観に挟まれながら「コーラン」を熟読し、それが「呪い」のように彼に染み付いたんじゃないかと僕は思うんですよ。

「コーラン」には何が書かれているのか

前作の「別離」でも「離婚」をむかえた夫婦の物語でしたが、今回も「離婚」が軸になっています。「コーラン」の教えでは「結婚」の手続きと一緒に、「離婚」のときどうするか、あらかじめ取り決めしておかないといけないんですよ。

日本人の感覚では理解しづらいんですけど、「永遠の愛は存在しない」というのが「コーラン」の教えなんですね。永遠に男女が共に過ごすことはないのだから、円満に別れられるように最初に決めておきましょうってことなんです。

そういった下地に「コーラン」が敷かれている映画ってことを頭にいれてみると、この映画に深みが出てくると思います。

他にも「ガラス」をアイテムにした心理表現の素晴らしさなど、いろいろと詰まりに詰まった傑作です。

2014年ベスト1映画の最有力候補!
激しくオススメします!

座頭魄市orejiru at 20:23│コメント(0)トラックバック(0)映画 │ このエントリーをはてなブックマークに追加

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