2014年03月14日

ローマの歴史 (中公文庫)
I. モンタネッリ
中央公論社
1996-05-18


今すぐにでもイタリアへ旅行に行きたくなるような、今そこら中にある社会問題の数々がどうでも良くなるような。影響を受けたというよりは——。
そうだ、これは恋だ。

前評判で面白いとは聞いていましたが、これほどローマ史がドロドロのグチャグチャで、咽せかえるほどニンゲン臭くて愛おしい物語だったとは。十二分に期待を寄せて読んだのにも関わらず、軽やかにK点越えです。

学生時代には選択授業で世界史を選択していたのですが、この時間は睡眠時間だったんですね。年表にずらっと整頓されている、記号化されてしまった古代人の名前に愛着なんてわかなかったんです。

ですが、2000年以上もこうして語り継がれているのには、2000年以上もこうして語り継がれるだけの理由があって、永く人を楽しませる、惹き付けるストーリー性がそこにあるんですよね。


大人気となったマンガ「テルマエ・ロマエ 」の作者ヤマザキマリさん。この方はローマに深い造詣を持っているのですが、古代ローマについては「寛容性」と「ダイナミズム」と「増長性」こそが、その魅力だと仰っています。

初期のローマに僕はスパルタ的な印象を受けました。
ストイックなんですよね。そういった文化的なものは主に「言語」に表れます。
言語はラテン語で、文法はしっかりしていましたが、語彙が乏しかったようで、ニュアンスの表現がありませんでした。法律のために言語がある、といえるほどでした。基本的には父から子へ、神話を教わるていどで、あとはひたすら軍隊として肉体を酷使していく生活でした。物心つく頃から軍隊として育てられるのですが、この訓練が非常に厳しかったらしくて、死んだほうがラクだと思えるほどの辛い日々を過ごしたらしいです。ですから誰もがみんな早く実践に出たいと思っていたようです。戦で死ぬことを「苦」と感じるような教育ではなかったんですね。

女の人はというと、これまた現代人にとっては酷い話に聞こえるんですが。基本的に女児が生まれたら戸外に捨ててもよいとされていました。スゴい話です。
育てるなら育てるで、名前はありません。「(父の名)の女」が名前となります。ユリウスの子なら「ユリア」、コリネリウスの子なら「コリネリア」です。どこに「寛容性」があるんだって話ですけども、「ダイナミズム」ではあるかもしれませんね。

軍隊としては優秀です。同じ頃ギリシアでは言語も発達し、「詩」も「小説」もありましたし、「演劇」だって楽しんでいたんですよ。一方でローマは娯楽も知らず、ひたすら神話だけを信じ、訓練に励んだのです。ローマ軍が一気に領土を拡大していくのは火を見るよりも明らかです。

ここでローマの「寛容性」について。

ローマのおもしろさの一つとして、ローマ人の信仰があります。神が豊富なんですよ。赤ん坊が立って歩けるようにアベオナ神に祈って、言葉がしゃべれるようにファブリナ神に祈って、種蒔きがうまくいくようにサトゥルヌス神に祈って、梨の木に実をつけさせたい場合はポモナ神、豊作を祈るにケレス神、牛の乳の出をよくするにはステルクルス神——。
なにをするにも、それ専用の神がいたんですね。その数はなんと30000を超えます。町によっては人口よりも神が多いんですよ。

なんでこんなおもしろい事になっちゃったのかというと、ローマは敵の領土を侵略したのちに、人は殺すか奴隷として売り飛ばすんですね。その他は大体火をつけて焼き払うんですけども。そのなかで、神殿だけは全部そっくり持って帰ってローマに迎え入れるんですよ。ちゃっかり神を集めちゃうんです。

ビックリマンシール集める子どもみたいな。
ヘラクレス(酒と快楽の神)キター!!
みたいなノリだったんでしょうかね。

神をすべて受け入れるローマ。奴隷としてローマ入りした人々に対しても、信仰までは奪いませんでした。
ここに「寛容性」があるんですね。
神に限らず、「下水道」「運河」「城壁」「詩」「小説」「演劇」「占い」など、あらゆるものを輸入し、加速して多様性をもっていきました。この文化のごった煮感が、なによりローマの魅力なのかもしれません。

本書での山場は「一神教」との衝突でした。「ブルータス! おまえもか!」で有名なカエサルの暗殺から展開が加速し、エジプトのクレオパトラまでもがローマに絡みます。繰り返しになりますが、僕は世界史の授業寝ていましたから、クレオパトラがローマ史に絡んでくることすら知らなかったんですね。もう大興奮です。名前だけは知っている、記号化されてしまった人たちが、心を持った(それも下衆くてドロドロの)ニンゲンとして一斉に動き出すんですよ。
カリグラ、そして全ての元凶「ネロ」にイエス・キリスト。くわえてペテロ。ああ、未だに「ネロ」のつけた火種は消えてはいないんだな、現代でも底のほうで燃えているのだな。そんな古代の火種を知ることが出来たのはおおきな、とてもおおきな収穫でした。

詳しく書くのはやめておきます。というのも、宗教の史実に触れるのは新たな火種になりかねませんから。僕がここで、エホバって誤解されてるじゃん! と主張したところで、それを良く思わない人もいます。あたらしい友愛に満ちた友人が増えるでしょうし、同時にあたらしい敵も増えるでしょうから。
それに、僕は本書でしか史実を知りません。歴史を知らないバカはたくさんいますが、歴史を鵜呑みにするバカもたくさんいます。僕はどちらにも属さないよう気をつけていきたいです。

つい誰かに語りたくなる人物が山ほど登場します。
もっとも人気があると言われているのがハンニバル。
歴史上もっとも偉大な人物とは言えないかもしれないが、もっとも天才であったのは間違いないと評される人物です。ハンニバルについてはマンガでも読むことが出来ます。荒木飛呂彦先生が大絶賛したマンガで、現在最新刊は5巻。
僕も読んでいますがめっちゃおもしろいです。このマンガから古代ローマへの恋がはじまりました。活字が苦手なかたはハンニバルの物語から入ってみてはいかがでしょうか。



「ネロ」の義父であるクラウディウスも捨て難いんですよ。ハゲで女たらし「カエサル」がブルータスryと叫んだ暗殺事件のあと、ひょっこり登場する男でして。ずっと「白痴」として表舞台に出てこなかったんですが、カエサル暗殺を企んだ親衛隊に、「あの白痴を皇帝にしておけば思い通りに操れるだろう」とあてがわれた人物なんです。そのとき齢50。手足に障害があり、足をひきずって歩き、口をひらけば唾を飛ばしながらわけのわからない話をするので疎外されていました。ですが皇帝になった途端「諸君がわたしを哀れなうすのろだと思っておられることは、よく存じている。だが私はうすのろではない。私はうすのろのふりをしていたのだ。そのおかげで今ここにいるのだ」と欺く策士です。50年間も人と接触するのを避け、自室にこもり、書を読み耽りながら時を待つなんてちょっと考えられないですよね。実際のところ、「白痴」であったのかどうかは定かではありません。でも僕は恐らく「白痴」だったろうと考えています。といいますか、古代ローマ人は著しく「白痴」が多かっただろうと思います。だって、近親相姦ばっかしてるんですもの…。

これまでは塩野 七生「ローマ人の物語」に踏みきれずにいました。文庫本にして全43巻にもなる超大作に、正直怯んでいたのですが、これで準備は整ったように思います。ローマの歴史がこれほどおもしろいと感じさせてくれた本書にまずは感謝。そして超絶おすすめ本です。

特に世界史に全く感心がわかなかった人、これだけは読んでおけ。










座頭魄市orejiru at 00:51│コメント(0)トラックバック(0) │ このエントリーをはてなブックマークに追加

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