2014年01月28日

未読の方はまずは読んでほしい。
既読の方はこれより面白い本を是非教えてほしい。



上中下巻を合わせると2000ページにも及ぶ長編小説だが、費やした時間に対する見返りは手に余るほどに大きかった。とてもひとりでは受け止めきれないその見返りのことを、たかだか数千字程度で説明するのは著者に対する冒涜のようにも思える。

そもそもが、これほど素晴らしい小説と釣り合いのとれる“感想文”なんてものを、納得のいく完成度で書ききる自信がまったくない。さて、どうしよう。

いや、そもそも感想を書きたいのではない。読んでもらいたい。あなたに読んでもらうにはどう書くべきかを悩んでいる。


著者のグレゴリー・デイヴィッド・ロバーツは1952年、オーストラリア生まれ。10代で無政府主義運動に身を投じる。20代で結婚するが、すぐに家庭は破綻する。離婚を機にヘロイン中毒になる。1977年、銀行強盗をして逮捕される。刑期20年。1980年、刑務所から脱走。2年かけインド、ボンベイに渡り国外逃亡に成功する。ボンベイのスラム街にて無資格で医療所を開設。世界基準での最下層相手に治療を続けるうちに、マフィアに見出される。しかし何者かの裏切りによって逮捕。世界で最も劣悪な環境で知られるボンベイ刑務所に収容。そして地獄の監獄からの生還を果たす。それから友人の死、愛の喪失から再びヘロインの世界へ——。

ここからさらに濃い人生が続くのだが、なんだかスゴそうな予感は感じてもらえるだろうか。「シャンタラム」はこの著者の私小説と考えていただいて構わない。著者は一度オーストラリアに戻り、残りの刑期を済ませた後に、獄中で書いたこの「シャンタラム」を発表した。刑務所内、脱獄、スラム街、薬物の魔力と過酷な離脱、アフガニスタンの戦争、マフィアの抗争と、あらゆる描写が緻密に描かれている。おかげで読んだ者はインド周辺の内情を、空気を、人間を、そして叡智を知ることになる。この本が発表されるやいなや、バックパッカー達の手から手に、本は旅を重ねて、海を越え、ハリウッドセレブ達の元へと渡った。ジョニーデップは「シャンタラム」に惚れ込み、映画化の権利を手に入れた。世界中を虜にする日は近い。

なによりも、初めの1ページを読めばその先を読まずにはいられないだろう。

 愛について、運命について、自分たちが決める選択について、私は長い時間をかけ、世界の大半を見て、今自分が知っていることを学んだ。しかし、その核となるものが心にめばえたのはまさに一瞬の出来事だった。壁に鎖でつながれ、拷問を受けているさなかのことだ。叫び声をあげている心のどこかで、どういうわけか私は悟ったのだ。今の自分は手枷足枷をされ、血を流している無力な男にちがいないが、それでもなお自由なのだと。拷問をしている男を憎む自由も、その男を赦す自由も自分にはあるのだと。どうでもいいようなことに聞こえるかもしれない。それはわかっている。しかし、鎖に噛まれ、いたさにひるむということしか許されない中では、その自由が可能性に満ちた宇宙となる。そこで憎しみと赦しのどちらを選ぶか。それがその人の人生の物語となる。
 私の人生の物語は長く、込み入っている。私はヘロインの中に理想を見失った革命家であり、犯罪の中に誠実さをなくした哲学者であり、重警備の刑務所の中で魂を消滅させた詩人だ——


向こうからやっては来ない。ここから先は、あなた自身が向かわなければならない。感動は、遥か2000ページ先であなたがやって来るのを、じっと待っている。

座頭魄市orejiru at 23:02│コメント(0)トラックバック(0) │ このエントリーをはてなブックマークに追加

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