2014年01月16日

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【ストーリー】
声優になることが夢のアニメオタク女子・麦子は、無責任な兄の憲男と2人暮らし。そんなある日、麦子たちが幼い頃に家を出たまま音信不通だった母親の彩子が突然現れ、同居することに。自分勝手な母が許せず戸惑う麦子だったが、実は病魔に冒されていた彩子は、ほどなくして他界してしまう。麦子は納骨のため母の田舎を訪れるが、若かい頃の彩子とそっくりな麦子は町の人々に歓迎され、それまで知らなかった母の一面を知る。
【感想】
なんなら★10でもよかった、激しくオススメ作品。

ダメ人間を撮らせたら右に出る者はいないと評される吉田恵輔監督。
「麦子さんと」を鑑賞するにあたって過去作品を復習した。
「純喫茶磯辺」「さんかく」の2作品。
純喫茶磯辺 [DVD]
宮迫博之
メディアファクトリー
2009-02-06


さんかく 特別版(2枚組) [DVD]
高岡 蒼甫
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-11-03


こんなおもしろい作品をこれまでスルーしてきたことに憤りを感じる。
めっちゃくちゃおもしろい!特に「さんかく」に関しては恋愛映画部門屈指の大傑作だ。
吉田恵輔監督を未見のかたは「麦子さんと」にも足を運んでほしいが「さんかく」から観るべきである(もちろん「純喫茶磯辺」も秀逸なので見逃してはいけない)。吉田恵輔の演出は凸と凹で互いを補う本来の人間関係ではなく、凹に凹でもずらせば補いあえるじゃん!といった感じの少しいびつだがそれが味になる演出。ダメな人間を補うのは、やはりダメな人間なのだ。

今回の「麦子さんと」でもやはりダメ人間が多く登場する。
というよりダメ人間のオンパレードである。
冒頭は母の遺骨を抱えて母の田舎を訪れた麦子。
駅で待機していたタクシーに乗り込む。
後部座席に座る麦子の姿をバックミラーで確認するやいなや、運転手は麦子の母である彩子さんにあまりにもそっくりな姿に驚く。そして前方不注意で警官を轢いてしまう運ちゃんと、轢かれたというのにマイペースなどこか間の抜けたその警官。

その冒頭シーンによって、これからダメ人間がいっぱい登場します宣言としている。

麦子と暮らすお兄ちゃんは、パチ屋の仕事をしているスロッター。
部屋にスロット機「アステカ」と「大花火」を設置しているところから筋金入りだとわかる(ちなみに「麦子さんと」の完成披露会見で監督は2013年はたくさん仕事をした(映画3本撮っている)ので2014年はカジノでのんびり過ごしたいと発言。たぶんダメ人間だろう)。

それでも幼い頃から家を出て行った母と他界した父に代わって親のように麦子を面倒みていた、のだが。事態は急変する。
突然母が訪ねてくるのだ。
そこで実は母から、毎月仕送りを15万円も受け取っていたことが判明してしまう。母曰く、毎月15万円用意するのが難しくなった。これを機に一緒に暮らそう、と。居心地悪くなった兄はどことなく長続きしなさそうな彼女と一緒に暮らすと言って出ていってしまう。
突然家を出ていった母を許せない麦子だったが、そんな母との急に始まる2人暮らしにとまどいを隠せない。朝は母が使っている、うるさすぎる目覚まし時計(この時計は伏線となっていてやがて回収される)で強制的に起床。大好きなアニメ(伏線)を見ていても割り込んできて集中出来ない。勝手にマンガの単行本を捨てるわ、勝手に人の郵便物開封(伏線)してるわで麦子はついにぶち切れる。母を突き飛ばし(伏線)てしまう。

突如はじまった母との暮らしだが、おわりも突如やってくる。
母は末期がんだった。突然に他界する。

回想はコンパクトにまとめられているものの、伏線(というほど大袈裟なものでもない)が多く貼られている。あらすじで書き出した中にもカッコで示したが、あらすじ以外のシーンでも多く見受けられた。終盤にこれらを丁寧に拾ってゆくのが心地いい。

回想はおわり、冒頭にもどる。

ここから母の田舎でのドタバタが始まるのだが、どいつもこいつもだめな感じがゆるく出ていてたまらない。役所勤めのミチルさんもババアのくせにボーイズラブにはまってるし旅館の亭主ハルオも口が軽すぎるし、その息子も麻雀パチンコばっかりの田舎いるいるなもやしもんだ。凹と凹とが出会い繋がって、時に励まし合ったり、かと思えばけなし合ったり。そうして繫いだ人間関係の先に、思いもよらぬ感動が待つ。

吉田恵輔の流儀がしっかりと詰まった傑作でした。
文句なしのオススメ。

「麦子さんと」★9


座頭魄市orejiru at 16:22│コメント(0)トラックバック(0)映画 │ このエントリーをはてなブックマークに追加

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