2013年10月31日

TBSラジオ「たまむすび」で映画評論家の町山さんがサウジアラビアの映画「少女は自転車に乗って」を紹介してました。この内容がなかなか恐ろしい内容で、現状をできるだけ広めたく思いほぼ全編を書き起こしました。一部読みやすいよう改変していますが内容の改変はしておりません。ご了承ください。

たまむすびは一週間はポッドキャストに残してますので11/5(火)までは視聴もできます。
ポッドキャストはこちら

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今日はアメリカ映画じゃないんですけどサウジアラビア初の女性監督の映画で、
「少女は自転車に乗って」という非常にかわいいタイトルの映画です。
ものすごいかわいい話なんですよ。
サウジアラビアの首都に住んでいる10歳のおてんばの女の子でワジダって子の話なんですね。
ワジダって女の子の幼馴染の男の子がいて、アブドラって子なんですけども、その子が自転車買ってもらって、その自転車乗って女の子の家まで行ってからかうわけですね。チリンチリンつって。

んでその子がお前自転車持ってねえじゃねえかってからかうもんだから、わたし自転車欲しいってお母さんにねだるわけですね。そうするとお母さんは「女の子は自転車なんか乗っちゃだめ!」って言うんですよ。しょうがないから自分でお金を貯めて自分で買おうとしていろんなことをするんです。ミサンガを一生懸命作って売ったり、FMラジオのアンテナを建ててそれで英語の放送をキャッチしてそれをテープに録ってですね、アメリカのロックやポップスのミックステープを作って売るんですよ。

(なかなかグレーゾーンな商売を)

だって音楽聞いちゃいけない事になってる。

(え?国の決まりですか?)

国の法律です。

(サウジアラビアはだめ?)

サウジアラビアだめです。
それでですね、女学校に通ってるんですけど、上級生のラブレターを運ぶ運び屋をやったりするんですよ。まあかわいい映画なんですけどね、この映画を観てあっと思うのはサウジアラビアの女の人たちって頭から足の先まで全部隠す黒い布被ってるじゃないですか。あれアバーヤって言うらしいんですけどサウジアラビアでは。目だけ出してるんですけども、あれあの下何着てんだろって思うじゃないですか、それを見せるんですよ裸じゃないんですけど。で何を着てるかっていうと全くアメリカとか日本と着てる服とおんなじなんですよ。ワジダちゃんが履いてるのはですねリーバイスのスリムのジーンズにコンバースのバスケットシューズを履いてるんですよ。かわいい靴ひもしてですね、ピアスとかネックレスとかしてるんですよ。女の人の間だけでは見せていいんですよ。それでデパート行くシーンがあるんですけど僕らと同じような服を売ってるんですよ。

(それは見せなければいいってことですか?)

見せなければいいんです、それも悲しいですけど。せっかくおしゃれしてるのに。
この映画、自転車乗っちゃいけないわよってお母さんに言われるって言いましたけど、これは厳しい戒律で決まってるんですよ。で、自動車も乗ってはいけない。女の人だけ。
でね、この間土曜日にね、サウジアラビアでこの法律に対する抗議として一斉に自動車に乗るって運動をおこったんですよ。みんなで一斉に運転してそれを写メとかで撮ってネットにあげる運動やったんですね。それで60人くらい逮捕されたらしいんですけど。

(え…絶句)

ただ、この映画そのものをふつうに観ているとただかわいい映画なんですけど実は恐ろしいことがいっぱい描かれている怖い怖い怖い映画なんですよ。

(こわい…映画?)

こわい映画なんですよ。
これ、例えばその、ラブレターを運んでるじゃないですか。
それで途中でラブレターが見つかっちゃうんですけど、ラブレター送った少女はどうなるかというと殺されちゃう可能性があるんですよ。

(え?ん?)
(ラブレターを書いた…だけで?)

そうです。結婚前の女が男と話したら、もうそれでだめなんですよ。で、名誉殺人って言うんですけど2008年に実際に起こった話なんですけどFacebookで自分の娘が他の男とチャットしたのを知って娘殺したんですよ。

(え?それは…罪にならないんですか?)

罪にならないです。名誉殺人だから。

で、結婚前の女が男にラブレター送ったんで、これ発見したよって事しか出てこないんですよ映画の中では。で、下手すりゃ殺される可能性があるんです。この娘は自分の父親に。

(……ため息)

これはどうしてかっていうとサウジアラビアは女性に人権はないので、女性は全て夫か父親の保護下に置かれる必要があるんですね。一人で自立することは法律で許されていないんですよ。自分でお金を稼いで自分が世帯主になることはできないんです。一生です。選挙権もないんです。選挙権がないからこういうことがずっと続いてるんです。

(そっか…)

この映画のなかでラブレター送った女の子は最悪の場合は殺されるんですけど、殺されない場合は嫁に出されるんですよ。サウジアラビアでは9歳くらいから嫁に出されます。要するに娘を生んでもその娘が社会に出て働く仕事っていったらお手伝いさんか女学校の先生か看護婦くらいしかないんですね。女性の社会進出なんて出来ないのでつまり食わせないといけないんですお父さんは。娘を抱えてるかぎり。娘はほとんど財産を分与されたりですね、相続することもないんで全く存在価値がなくなっちゃってるんですよ。子ども生む以外に。だから10歳くらいでこの娘はいらないって思えば売りに出されるんです。でこの子は40くらいの男とかと結婚させられるんですよ。4人目の妻とかで。
で、このワジダのお母さんっていうのはワジダちゃんのあと子どもを授からなかったんで、その父親は男の子じゃなければ意味がないつって2番目の奥さんをもらおうとするんですよ。それも酷い話ですよねえ。それが現在も続いていて、サウジアラビアの女性の地位っていうのは148カ国中145位なんですよ。まだ下にはアフガンとかいるんですよ。もっと酷いところがあるんですよ。こういう世界なんで自転車を少女が買うって話だけなんですけどその中に変なことがちょこちょこっと描かれていて、調べてみるとみんな恐ろしい事態に繋がっているって映画なんですよ。

はっきりとは言わないんですよ。例えば女の子たちがお母さんたちと一緒に歌を歌ったり踊ったりするシーンがあるんですよ。ところが近所に男の人がいたり自分の家に男の人がいたら、いると思ったらもう歌を歌えないんですよ。歌は禁じられているんです。

(なんで歌っちゃいけないんですか?)

これね、はっきりとは言ってないんですけど、歌ってのはほとんどがラブソングじゃないですか。
だって恋愛は存在しないんだからこの国には。

結婚は全て自分の保護者である父親と相手の男つまり旦那との契約関係で結ばれてて、自分の意志もなければ結婚に関しての契約に女の人が関わることもないんです。売買されるだけなんで。

(でもみんなには意思はあるんですよね?ほんとはこうしたいとか)

あるからこの間の自動車の運動のようなことが起こったりしてるんですけどね。ただ殺されちゃう世界ですから。サウジアラビアってのは公開処刑とかあるんですよ、今もやってます。サウジアラビアのすごいところってのは女性がレイプされると男性は処罰されないで女性だけが殺されるんです。むち打ちとか、酷いときは投石ですよ。

(それ…法律で決まってるんですか?)

法律で決まってるんですよ。

(これって宗教的なものなんですか?)

サウジアラビアとしては宗教的といってるんですがよく考えたらイスラム教の国って他にもいっぱいあるんですよマレーシアとか。マレーシアなんて女性の社会進出率40%超えてて、日本よりも重要な仕事に就いている人の率ってのは高いんですよ。宗教関係ないです。イスラム教ですけど、イスラムはコーランに従うんですけどコーランのどこにも自動車のっちゃいけないとか書いてないですからね。勝手に解釈してるんですよ。
それで服装にしてもそうですけど、アラビアンナイトとか思い出してみるとわかるんですけどアラブの人は派手な格好してるじゃないですか、あれ実は黒い服の下はそういった格好してるんですよ。やっぱりそういうの好きなんですよほんとうは。あのね、関西のおばさんに近いセンスですね。ちょっとギラギラした感じの。でも見せちゃいけないんですよ。これ…ねえ…ひどいですよね。

(しかしよくまあそんななかで女性監督、映画よく撮れましたね)

これね、撮るのほんと大変で、撮影現場で外でロケしてるときに男の人に指導するじゃないですか本来。でも命令してるところ見られたら大変なことになるから彼女はずっと車の中から遠隔操作して演出したんですって。もしこの人が外でメガホンで「はいそこカメラ右から〜」とか言ってたら、なに男に命令してるんだって言われて大変なことになってたわけですよ。これは酷い…んですけど、ただ映画そのものはそういう風に見えないように作ったのが偉いですねえ。ただ映画みてね、なんだかわかんないまま帰る人もいると思うんですよ。ただなんかひっかかる事あとで調べてみるとぜんぶ現実の問題と絡んでいる非常によく出来た映画です。


かわいい女の子のかわいい恋の物語にした方がみんな観るじゃないですか。

(見やすいかもしれないですね)

でしょ。
それで見たあとこれなんかおかしいんじゃないかと。
それがですねサウジアラビアの問題が全体に広がっていくと。

この映画ね、問題なのはサウジアラビアでは上映されないんです。映画館ないんです。映画を見ることは禁じられているのでサウジアラビアでは上映されないんです。

(じゃあどうやって届けたら…)

サウジアラビアは裏でDVDとか回ってるようなんですね。この監督もそうやって裏で手に入れた映画、ジャッキーチェンとか死霊のはらわたとか観て映画好きになったって言ってますね。観てる映画にちょっと問題あるんですけども(笑)そういうところ僕好きなんです。ジャッキーチェンと死霊のはらわたが好きな監督なら間違いないと思って(笑)

(町山さんと同じ匂いしますよね)

そうそうそう(笑)同じ仲間系なんですけどもね。でもね、これなかなかこの世の中変わらないですよ。だって選挙権がないから。政治を変えられないんですよ。

(でもね、町山さんがこうして教えてくれますし、世界的にはけっこう知れてきてる情報なわけですよね?)

いや〜サウジアラビアっていうのは…。だから普通にそういう酷いことをしてるとアメリカが圧力をかけるんですね、他の国では。だけどサウジアラビアには圧力かけられないんですよ。

(え?なんでですか?)

石油があるから。

(そっか…)

もう石油売ってもらってるもんだから文句言えないんですよ。
酷いことやってるとわかっててもそれを経済制裁するとか出来ないんですよ。


で、この女の子がどうやって自転車を買うかっていうと、女学校のなかでコーランの暗記大会ってのがあるんですよ。それに優勝すると賞金がもらえるんで、コーランを一生懸命勉強するっていう非常に皮肉な展開なんですよ(笑)その勉強っていうのもプレイステーションでするんですよ(笑)
(え?それは実際に…)
実際にそういうのあるんですよ(笑)生活とか何もかも日本やアメリカと同じなのに女性差別だけが異常なんですよ。

切ないシーンがあってですね、この幼馴染の男の子がですねワジダちゃんのこと大好きなんですよ。で、好きなんで世の中の人がどんな事言ってもぼくはきみをお嫁さんにするよ!って言うんですよ。でもそんなこと許されないんですよ…。

(そっか…じぶんたちの恋愛ができるわけじゃないんですものね)

できないんです。
だからそれを聞いたワジダちゃんがすごく寂しそうな笑顔をするところとかすごく切ないんですよ。
でもそういうふうに思ってる男の子がそのまま大きくなって闘ってくれたら世の中変わるかもしれない。ほんとに愛してる人と結婚できないのかと。そういう世の中にしようよって言ったら変わるかもしれない、そういう希望も残してくれるんですよ。

でね、ラストシーンもすごくね、台詞とか一切ないんですけどものすごく意味のあるシーンでおわるんで是非日本でも観ていただきたいと。

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日本公開は12/14 公式サイト「少女は自転車に乗って

座頭魄市orejiru at 00:47│コメント(0)トラックバック(0)映画 │ このエントリーをはてなブックマークに追加

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