2013年01月18日

週も半ばのこんなクソ寒い木曜日の真っ昼間に、スーツ姿のサラリーマンが取っ組み合いの殴り合いをしているのを目撃しまして、それを車中安全圏から「いいぞ、もっとやれ」と双方応援しながらふと、最後に人を殴った日の事を思い出しました。

体罰問題のエントリーをよく目にする中、夜回り先生こと水谷修先生が先日書いた記事【私は、一度だけ体罰を生徒に与えたことがあります】を丁度読み終わりましたのでスピンオフっていうんですかね、かっこいい感じでいうと。

今から10年前の話です。わたしが最後に人を殴ったのは。
ジョーは問題児でした。ジョーとわたしは高校で出会ったのですが、入学当時からジョーは周囲の人間とはどこか違っていました。それは入学後、最初の美術の時間でした。美術の先生が最初に出した課題は隣の席の人間同士、互いを描くものでした。わたしはジョーを描きはじめました。何度もジョーを観察するうちに、ジョーに違和感を感じました。
ジョーはわたしをほとんど見ていないのです。その違和感は時間が経つにつれ確信に変わりました。彼はわたしを想像で描いている。パレットに目をやると、青色の分量が異常に多い。わたしは青い服など着ていないのに。ジョーと同じく真っ黒の学生服だというのに。黙々と描きながらジョーは何度か含み笑いをしていました。きもちのわるい青年だと嫌悪感を抱きました。
チャイムが鳴ると同時にわたしはジョーの描いた絵を奪い取りました。
案の定、きもちのわるい、例えようのないほどきもちのわるい、薄汚い絵でした。

青白い顔をした、ジョー目線でのわたしの絵をそのまま破り捨てようかとも思ったのですが、このようなきもちのわるい人間と接触するのは初めてという好奇心も手伝い、わたしは彼と交流をはかりました。というのも、わたしもひた隠してはいるものの、きもちのわるい人間ですのでジョーのこころの闇に共感する部分もあったのかもしれません。
放課後、ジョーを学校近くの山に誘い、小さな町を見下ろしながら語りました。ジョーとわたしはすぐに打ち解けました。わたしは小学生の頃、下着泥棒をしていました。バカでしたので1枚づつ盗めばばれないという発想しかなく、同じ家を狙いました。3枚目を手に入れてすぐに下着の持ち主から学校に通報されあえなく御用となり、泣きながら持ち主に謝ったのを思い出します。下着盗んで何がしたかったの?と問いただされ、さすがに履いてましたとは言えず、うつむいて泣くしかありませんでした。その話を聞いたジョーは笑いながら中学でブルマ黒ストッキングに手を出していた過去を語ってくれました。16歳の友情のはじまりなんてものは案外単純なものです。


ジョーとの交流は高校卒業後も続きました。二人で暮らしていた時期もあります。
それから20代前半。わたしたちは友人4人でタイへ旅行に行きました。わたしがジョーを殴ってしまったのはタイの旅行中でした。
わたしたちはその晩、ナナプラザに向かいました。ナナプラザは夜遊びスポットで、ゴーゴーバーと呼ばれているお店が連なる地。女性達の香水の香りと屋台の香草の香りと近くのどぶ川の匂い、ぎらついた白人の体臭や精液の匂いやらがごった煮となり、タイの熱風とともに鼻奥を刺激する歓楽所です。
ナナプラザでわたしは一人の女性に心を奪われました。その女性はファッション誌から飛び出してきたかのようなとても美しい女性でした。女性に見惚れていると、その女性はわたしの視線に気がつき手招きをしました。人形のような女性に操られるまま、わたしは女性の傍に立ちました。「店に来て。」そう耳元に囁き、わたしの手を取って店に案内されました。その店はオカマバーでした。わたしは混乱しました。一人では考えられず、女性に「また来る」と伝え一度店の外で待つジョーと仲間たちの元へ戻りました。わたしは仲間たちに恋におちたと正直に伝えました。二人の友人はとても嬉しそうでしたが、ジョーだけは違いました。ジョーはわたしの恋を真っ向から否定しました。「あれ男だぞ」わたしは彼の言葉の意味がわかりませんでした。わたしの考えではちんちんがついているかついていないかの違いは大した問題ではないですし、そもそも男が男に恋をするのは特別な問題ではないはずです。しかしジョーはわたしに追い打ちをかけるように捲し立てます。「あれ男だ。ありえねー」「改造人間だよ、きもちわりー」わたしは次第に怒りがこみ上げて来ました。「ジョー、そりゃ差別だよ。心は女なら女じゃないか」「いや、ありえねー。まじ無理だわ」「ジョー、男が改造して女になったんじゃない。女にたまたまちんちんがついてるだけだ。それならそのちんちんも女じゃないか。」言い争いはナナプラザの入口でヒートアップしていきました。熱量も沸点に達したところで「お前があれを女だっていうならお前もきもちわりーわ。」

私は、ジョーの胸ぐらを掴み、思いっきり殴りました。

「ジョー、なぜ分からないんだ、差別だって。お前が誰かを好きになって、その子にちんちんついていたらお前は冷めるのか?お前が人を好きになる感情はその程度か?」

ジョーもまた、わたしの胸ぐらを掴み、殴りました。

「フツーの人間ならちんちんついてたら冷めるだろ!」

周囲にいるたくさんの白人たちが、わたしたちを心配そうに見ていました。渋谷のハチ公口並の賑わいを見せるナナプラザの前でニッポンジン二人がちんちんちんちん連呼しながら殴り合っているのですから謎めくエイジアでしたでしょう。程なく、見守っていた友人二人が止めに入りジョーとわたしを引き離しました。その日は別々のトゥクトゥクに乗り込み、別々の方向、夜の街に向かったような気がします。翌日以降もちんちんがついている女については一切触れないよう互い気を使いながら過ごしました。ジョーが考えを改めてくれたのはそれから3年も後のことでした。3年がたち、ジョーはわたしに「なあ、最近おかまに興味あるんだよね」と告白してくれました。わたしはやっとジョーが理解を示してくれたことを喜ぶ反面、やっぱりきもちのわるい人間だと寒気がしました。わたしはおかまに興味あるわけではありません。たまたま、惚れた女がおかまだっただけです。また殴り合おうかとも思いましたが、ぐっと堪えて歓迎しました。

人を殴るのは決していいことではありません、正論です。
同時に、正論だけがいいことでもありません。ちんちんついてる女をバカにしないでください。
正論言うならちんちんついている女ってヘンですよ。絶対ヘンですよ。
でも少し、少しだけ興奮をおぼえるんです。それが大人なんです。


いま、なぜこのようなエントリを書きはじめたのかよくわからなくなってしまいました。着地点がありません。わたしの悪い癖ですので出直してきます。


※追記
この投稿を読んだジョーから連絡がありました。
「おれが手を出したのはブルマじゃない 黒ストッキングだ 訂正しろ」
訂正するまでもないだろうと思ったのですが、とても重要な事なのだそうです。
ブルマじゃだめだ、黒ストッキングじゃなければ意味がないのだと。
次会ったとき殴ります。



座頭魄市orejiru at 21:08│コメント(0)トラックバック(0)創作 │ このエントリーをはてなブックマークに追加

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