2017年09月

2017年09月02日

ゲームの王国 上
小川 哲
早川書房
2017-08-24


ゲームの王国 下
小川 哲
早川書房
2017-08-24


小川哲という才能を、信頼して良かった。
伊藤計劃以後という時代は
本作の刊行によって幕を閉じると、
自信をもって宣言したい。
ありがとう。
塩澤快浩(SFマガジン編集長)

本屋で物色していたところに、
帯の文言が飛び込んできた。
上巻を手に取りパラパラ読んでみる。

舞台は1956年カンボジア。
第二次世界大戦後に独立を果たしたが、
国は貧しく、警察も政治家も不正が蔓延していた時代。
サロト・サルー後にポル・ポトと呼ばれる男の
隠し子とされるソリヤという名の少女と
天賦の智性を持って産まれたムイタック少年の物語。

SF要素が一切見当たらなかったが、
さらさらと流れる読みやすい文章に惹かれて購入。
直感を信じて良かった。

こりゃとんでもない傑作だぞ。

昨日まで許されていたことが
翌日には重罪とされるかもしれない。
昨日までの友と、今日殺し合わなければならない。
権力者が作った不条理なルールに染められた世界で
勝つためには、生き抜くためには、ルールを支配する
権力者にまで登りつめなくてはならない。
 
上巻は、そんなディストピア世界の中で
反旗を翻そうと必死にもがくソリヤとムイタック
そしてその周囲の者たちが丁寧に描かれていく。
何もかもが不条理な世界は、時に受け入れ難く
おそらくは途中で物語を閉じてしまう者もいるだろう。
ポル・ポトでググってみるといい。
嘘みたいな世界が、つい数十年前まで
この地球上に存在していたのだ。

上巻では、はっきりと示されはしないものの
どこかの地点をピークに世界がガラリと変わる
そんな予感をうっすら感じるはずだ。
狂った不条理な現実描写に

突如として現れるマジックリアリズム。
さっきまで顔をしかめながら読んでいたのに
次の瞬間にはゲラゲラ笑ってしまう。
また顔をしかめる。
繰り返し。

例えばこんな村人に。

シヴァ・プクー通称「泥」
泥の父は畑に穴を掘り、そこに陰茎を挿入して
マスターベーションをするのが習慣だった。
父はその穴を聖域(サンクチュアリ)と呼び
1日も休まず射精し続けた。
フランスとタイの紛争が勃発、戦闘が始まったが、
それでも構わず畑で射精を試みた。
しかし敢え無くフランス軍に拘束されてしまう。
長い戦闘が終わり、拘束が解かれた日に
股間を膨らませてサンクチュアリへ向かうと
戦闘でボコボコになった畑の中心、
いつも陰茎を挿入していた穴から
赤ん坊が顔を出していた。
それがシヴァ・プクー通称「泥」だった。

泥の特殊能力は、土を食って土と会話ができる。
土を食うだけで、どこを開墾すべきか、
肥料はどれだけ必要かなどがわかるのだ。

しょーもない。

日々、不条理な虐殺が繰り返されている世界で
実にしょーもない特殊能力を持った者が登場する。

他にも輪ゴムと会話が出来る者。
輪ゴムが切れると誰かが死ぬのが分かる。
「不正」を見つけると勃起する者。
北北東、900M先に不正発見!って…。
ポル・ポト政権下の暗い世界に悪ふざけ。

しかしこれが全体的に、非常に効いている。
これ、SFなんだよな。
どこかでピークに達して、壮大な転換を迎える気だな。
きつい物語を進めているのに、奥底でワクワク感が
じんわりと湧き上がっていく。

下巻に入ってからがスゴい。

時代は飛んで2023年。
近未来。
一気にSFへと駆け上がっていく。

何かを説明したがっているポーズばかりで
何も説明していないのは自分でもわかってるが
得体の知れない食べ物を半ば強引に勧められて
それがクソ旨かった時の快感、分かるでしょ?

スゴいから。
ただ、読んでほしい。


座頭魄市orejiru at 20:12│コメント(0)  | このエントリーをはてなブックマークに追加
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