2017年03月

2017年03月26日

「おまえは相手の鼻を殴った。そいつが前かがみになった。そうしたら、あとはそいつが立ち上がれなくなるまで、ひたすら殴りつづけろ。敵が何人だろうと、おまえは負けない。相手がひとりでも、ふたりでも、三人でも関係ない。これはな…熊のダンスだ、レオ。いちばんでかい熊を狙って、そいつの鼻面を殴ってやれば、ほかの連中はみんな逃げ出す。ステップを踏んで、殴る。ステップを踏んで、殴る!そいつのまわりでステップを踏んで、パンチを命中させる。たいしたパンチに見えなくても、何度もやられれば相手は疲れてくる。混乱して、不安になってくる。そこにおまえがまた次の一撃を食らわせる。ちゃんとステップを踏んで、ちゃんとパンチを命中させれば、おまえは熊にだって勝てる!」


熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド
早川書房
2016-09-08


熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド
早川書房
2016-09-08


冒頭の引用文は父親から息子レオへの教訓だ。

これは、暴力の権化ともいえる父親に育てられた三兄弟の物語。家族と、暴力と、絆の物語。

三兄弟が狙うのは軍の武器庫。バッグの中にはプラスチック爆弾、m/46。ペンスリット86%、鉱物油14%の割合で混合した爆薬、1つの塊が40g。それを12個。2.5mの導爆線を爆薬に蛇のように這わせてダクトテープで固定する。12時から1時へ。1時から2時へ、ぐるりと円を描き、12時に戻ってくると、そこで短い尻尾をもたげる。そこへ着火する。合計480gの爆薬によって、武器庫の扉はひらく。

軍用銃221挺、弾倉864個。中隊2つ分に相当する武器。

そんな大量の武器を盗み出した三兄弟の目的は、史上例のない銀行強盗。

ステップを踏んで、殴る。ステップを踏んで、殴る。
繊細に、大胆に。警察の鼻面めがけ、繰り出す暴力。
これは熊のダンスだ。


犯行の描写も、心理描写も、細部が非常にリアルだ。
それもそのはず。これは事実に基づいた小説なのだから。

この小説はアンデシュ・ルースルンドとステファン・トゥンベリの共著。そしてステファン・トゥンベリは、小説に登場する三兄弟と、血の繋がった実の兄弟だ。つまり現実では、四兄弟だった。ステファンは当時、兄弟が銀行強盗を計画していることは知ってはいたが、参加はしなかった。スウェーデンでは家族が犯罪に手を染めていることを通報しなくても、罪には問われない。

スウェーデンは現金使用率5%に満たないキャッシュレス社会として注目を集めている。銀行にさえ現金はほとんどないのだとか。なるほど、キャッシュレス社会を実現できたのは、それなりの理由があるのだと、妙に納得してしまった。

上下巻あわせて1100頁を超える大作だが、時間をかけて読む価値のある一冊だ。
大胆な犯行に、そして家族の絆に震えろ。




座頭魄市orejiru at 10:41│コメント(0)トラックバック(0)  | このエントリーをはてなブックマークに追加
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