2014年03月

2014年03月30日

Vol.0はこちら
http://takushi.blog.jp/archives/51982566.html
映画鑑賞後に読むと楽しめる内容となっております。

Vol.1 「バーン・アフター・リーディング」

バーン・アフター・リーディング [Blu-ray]
ジョージ・クルーニー
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2009-09-11




「なぜこのような映画をコーエン兄弟は作ろうと思ったのか」を読み解いていきます。

まず、タイトルの意味ですが、「007 ユア・アイズ・オンリー」から引っ張ってきてる言葉で「読後焼却すべし」という意味です。この映画ではジョン・マルコビッチが失くしたCDでCIAの秘密文書にあたります。CDですから“焼く”の意味も“コピー”と捉えることが出来るのが面白いところ。

ユア・アイズ・オンリー (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
ロジャー・ムーア
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2007-08-25



また別の意味もあって、読んでもくだらないから焼き捨てるという意味も含めてまして、マルコビッチの奥さんが「こんなくだらないものっ!」ってゴミ箱に捨てたシーンやCIAの上層部二人がCDの中身を見て「これはただのクズだ」というシーンもありますので、そういったいくつかの意味を掛けたタイトルとなっています。

CIAの職員ジョンマルコビッチはCIAをクビになるんですね。お前は役に立たないからと。クビを信じられないまま自分がCIAで働いていた時のことを回顧録にしてCDに書き出すんですね。そのCDを奥さんが捨てちゃって、そしてブラットピットとフランシス・マクドーマンドの二人がそのCDを拾うんです。そのCDの中身をみてビックリですよ。CIAの重要なデータですから。

二人はこのCDを使って金儲けを考えるんですね。

高級フィットネスで働くフランシス・マクドーマンドは、なぜそんなにお金が欲しかったのかですが、彼女は出会い系サイトにハマっていて、金持ちの中年男と遊ぶのが大好きな女性なんですね。彼女は自分の外見に非常に強いコンプレックスを抱えていて、全身美容整形をしたいと思ってるんです。幸せになるためには整形が必要だと思ってるんです。その費用がなくて困っていたんですね。

これはチャンスとばかりに、ブラットピットと組んで持ち主のジョンマルコビッチに電話をかけて「お前の重要なCDを持ってる。返してほしければ金をよこせ!」と脅迫かけるんですが失敗におわるんです。そこで今度はロシア大使館に持ち込んでみるのですが、これも失敗しちゃうんです。最終的にブラットピットはジョンマルコビッチの家に侵入。そこからボタンの掛け違いのようにズレてズレて人がバンバン死んでいく映画です。

ブラットピットも死ぬし、フィットネスのオーナーも死ぬし、ジョージクルーニーもジョンマルコビッチも次々に死んでしまうんですね。

で、「なんでこんな大量に死んだんだろうか、まったくわけがわからない事件だったな」ってCIAの上層部の一人が言うんですね。で、「この事件の中心人物の彼女(フランシス・マクドーマンド)は一体なにを求めてるんだ?」と聞いたら「整形費用のお金です」と。それで上層部が「それくらいだったら出してやるか」つって終わる映画なんです。


なぜこんな映画を作ったのかわけがわからない。アメリカでも言われていました。で、アメリカではCIAを批判しているんじゃないかという意見があって。特にCIAはイラク戦争の時に、イラクが核兵器を持っているっていう噂を調査していて、持っていなかったんですね。そこで、ブッシュ大統領に「持っていませんでした」と報告をしたんですが、ブッシュ大統領は「持っているって言え!」とCIAに言うんです。そこでCIAは「持っていました!」と発表しちゃった、という過去がありましたから。

※この問題を取り扱った映画はこちら
フェア・ゲーム [Blu-ray]
ナオミ・ワッツ
ポニーキャニオン
2012-03-02



そういう事があってアメリカではCIAはダメなんだと。911テロを事前に防げなかったのも重なり、とにかくアメリカでCIAはダメだって風潮の時に、この映画が出てきたのでCIAをバカにした映画なんじゃないかって言われていたんですね。

で、そこで出てくるのが歌なんです。The fugsというバンドがいてですね、政治的な歌ばっかり歌うバンドで、そのThe fugsの「CIA Man」という曲がエンディングに使われているんです。

これの歌詞がですね、CIAをバカにしている歌でいわゆる左翼系ソングなんですね。だから、CIAを批判しているんじゃないかって言われてるんですけども。

これに対して、監督のコーエン兄弟はインタビューで違うって言ってるんです。

じゃあなんなんだろうっていうと、CIAの映画ではないんです。


一番はじめ、この映画はどのようなはじまり方をしたのか思い出してください。はじまり方とおわり方は同じ映像なんですけども、スパイ衛星が地球を監視しているところから始まって、映画の最後もまた地球にズームアップして終わります。で、CIAの上層部二人はなぜちょこちょこ出てきて色々言うのかですが、これはCIAの二人は全て知っていたという話なんです。ぜんぶ見てたよ、最初から最後まで。だから最初地球が出てきて、最後地球にズームアップで終わる、全てお見通しさって話なんですね。

ショーンコネリーの盗聴作戦という映画があります。
盗聴作戦 [DVD]
ショーン・コネリー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2009-06-26


これは1960〜70年代にCIAが盗聴しまくっていると話題になったんです。ほんとにいろんな著名人を盗聴しまくっていたんですが、その盗聴テープを題材にした映画です。

また、マルコムXでも、マルコムXが暗殺されるんですけども内ゲバの黒人同士の抗争で。それを全てCIAが知っていたって映画なんですね。
マルコムX [DVD]
デンゼル・ワシントン
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
2006-11-02



そういうCIAが全部知っていたって話なんですが、面白いのが最後に「なんでこんなばかな事になったんだろうか」「彼女は一体なにを求めてるんだ?」「整形費用のお金です」という会話。

これどこかで聞いたことがあるオチじゃないですか。



「ファーゴ」です。
ファーゴ [Blu-ray]
フランシス・マクドーマンド
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2010-07-02



コーエン兄弟最高傑作と言われている映画ですけども、これ身代金をめぐっての殺し合いでほとんど全員死んでしまう映画なんです。で、さいごに女性保安官が「たったあれっぽっちのお金のためにこんなに死んで一体なんなの?」って言って終わる映画なんです。

彼らはこういう映画を撮り続けてるんですね。つまり少しのお金のために大勢の人が死んでしまう、人間ってなんてバカなんだろう。

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
トミー・リー・ジョーンズ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2012-09-14



ノーカントリーも同じような映画です。

コーエン兄弟はそういう映画をずっと撮り続けているというのがひとつ。

そしてもうひとつ。もっと深い、コーエン兄弟でしか出来ないことがあるんです。コーエン兄弟がこの後に撮った映画というのは「ア・シリアス・マン」という映画なんです。



※国内未発売

この映画はどういう映画かというと、主人公は真面目な男で神様をほんとうに信じているんですね。それで、なんでこんなに神を信じているのにこんなに不公平な目にあうんだろうって悩むんです。大学でも酷い目にもあうし、奥さんには逃げられるし、ろくなことはないと。それでなんでこんなに信じているのに酷い目にあうのか神様のところに答えを聞きにいくと、会ってくれないっていう話です。

という事は、これもそういう映画なんですよ。

ユダヤ教の子どもたちというのは日曜学校に通わなければいけないんです。ユダヤ教の教えというのを習わなければいけないんです。ユダヤ教の教えで一番重要なのはいわゆる旧約聖書ですね。旧約聖書というのはユダヤの歴史が書いてありますので。それを徹底的に覚えさせられるんです。

ですからユダヤ人というのは旧約聖書というのをはっきり覚えてるんですよ。成人式みたいなのがあって、そこで暗唱しなければいけないとか制約があったりして。もういやになるくらい覚えていて、ユダヤ教を信じていなくてもユダヤ教についてはなんでも知っているんですね。

で、「ア・シリアス・マン」って一体なんの映画かというと、ヨブ記という旧約聖書のなかで一番酷い話というのがあります。ヨブっていう人は神様を信じてすごい真面目に生きているのに子どもは次々死んじゃうわ、奥さんには逃げられるわ、体は病気になってしまうわ。ボロボロになっても真面目に生きてるのにこんな酷い目にあうなんてと友達に言ったら「お前はいい人かもしれないけど、たぶん神様には嫌われてるからお前には近づかない」って友達もいなくなっちゃうんですよ。

で、最後にヨブは神様に「真面目に生きてるのにどうしてこんな目にあっちゃうんですか」「神は遠大な計画のなかでやっているからお前にはその理由はわからない」って言われるんですよ。

それを現代の話にしたのが「ア・シリアス・マン」なんです。ほんと酷い話なんですが、それでも神を信じろって事なんですね。ほんと酷いですね、ユダヤ教っていうのは。

最後にヨブは急にお金持ちになって、幸せになって終わっちゃうんですよヨブ記って。さっぱりわからない話で、聖書のなかでも一番扱いづらいと言われてるんです。

で、「バーン・アフター・リーディング」も同じなんですね。

地球を外から見ていて、地上でおこっている事を全て知っている者たちって誰かといったら神じゃないですか。このCIAの二人は神です。

なんでも知っているけれど、それを見て「バカだなあ」と。「なんでこんな事で殺し合いしているんだろう」と。それで最後に「彼女は一体なにを求めてるんだ?」「整形費用のお金です」じゃあ「それくらいだったら出してやるか」ですね。これ、神の恵みですよ。

ヨブが急に金持ちになって幸せになるヨブ記と同じなんです。

これはアメリカ人もほとんどが意味が分かっていなくて、「バーン・アフター・リーディング」をググってみても「わからん!」って批評ばかり出てきます。これ、ユダヤ教徒じゃないと分からないんですね。

ユダヤ教ってのはキリスト教と違って不条理というか、ユダヤ教ってのは徹底的に虐められてきた歴史がありますからそういう不条理な出来事を受け入れろって話ばっかりなんですね。酷いことは世の中にいっぱいあるけれども、しょうがないんだと。神様にだってそれはわからないんだと。そういう話がスゴく多くて、コーエン兄弟というのはユダヤ教の教えの不条理さをギャグとしてずっと撮り続けている人なんですね。

特にユダヤ教の中で一番酷いと言われているものが「知恵の書」で、ユダヤの王様であるソロモンが書いたと言われている旧約聖書のひとつなんですが。これが酷くて、どういう内容かというと「何をやっても無駄だ。何をやっても虚しい」という事が延々と書かれているんです。これ読んでどうすればいいんだってくらい絶望的な書なんです。

例えば「知恵が深まれば悩みも深まる。知恵が増せば痛みも増す」

勉強するなって言ってるんですね。

他にもとにかく延々と全てが無駄だという教えなんですが、まさに「バーン・アフター・リーディング」もそういう映画なんですね。

じゃあジョージクルーニーの役はなんなのかというと「快楽」で、この人はセックスの事しか考えていないっていう設定です。フランシス・マクドーマンドはきれいになれば素敵な恋ができるって考えている乙女なんですね。いつか「願い」が叶うときがくるって思ってるんです。ブラットピットはこれ「頭がからっぽ」なんです。ジョンマルコビッチは俺は頭がいいって思ってるんです。映画のなかで周囲を終始バカバカ言っていて自分は「知恵の塊」だと思ってるんですね。ジョンマルコビッチの奥さんは「心がない」役ですね。

みんな欠陥人間なんです。

で、高級フィットネスのハゲの所長さん。実は彼は非常に重要な役で、彼は実は一度だけギリシャ正教の司教だったって台詞が出てくるんです。司教だった頃の写真が出てきますね。それでやめて何故かジムの経営をやっていると。ハゲの所長さんは真面目に生きていれば幸せになれると思っていた人なんですね。ところがそれをやめてジムを始めた。この人は「健康」であればいいと思ってる人なんです。要するに「心」ではなく「体」が大事なんだと切り替えた人です。

それぞれ、人生において何が大切なのかを探している人たちなんですね。

これはコーエン兄弟は発言していませんが、この映画は多分元ネタがあるんですよ。コーエン兄弟がこの映画を作ろうと思ったきっかけがあると思うんですよ。というのもコーエン兄弟はこれまでも何かの映画を元にする癖があるので多分そうだと思うんですけども。

恐らくジョージクルーニーの「弱虫」がキーワード。ブラットピットは「頭がからっぽ」がキーワード。ジョンマルコビッチの奥さんは「心がからっぽ」がキーワード。


心がない人と、頭がない人と、度胸がない人。
3人が、夢を信じている女の子と旅をする映画。

「オズの魔法使い」ですね。

ジョンマルコビッチがオズなんです。

オズのところに行けば願いが叶うと思ってみんながオズに絡んでいくんだけども、ほとんど全員死んでしまう。それを神様(CIA)は遠くから見ているというおはなしなんです。

この映画は全体的に緑色が多く使われているのですが、これはエメラルドシティをイメージしているからですね。ですから元ネタは「オズの魔法使い」で、願い事の虚しさとかそういったものを描いている映画です。特にCIAの二人が神っていうのは比喩的なものでもなくてですね、「素晴らしき哉、人生!」の中で二人の神が人間たちを見て「あいつはいい奴だから生かしてやろう」とか相談するシーンがあるんですが、その映画が元になっていると思います。
素晴らしき哉、人生! Blu-ray
ジェームズ・スチュワート / ドナ・リード / ライオネル・バリモア / ヘンリー・トラヴァース
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CIAっていうのは形だけで、願い事の虚しさをコーエン兄弟はいろんな形で撮っているんですね。どうして宝くじが当たるようなラッキーが起こったり、急に全てを失うようなアンラッキーが起こるのか。それは神様にもわからない。

そういう身も蓋もない映画が「バーン・アフター・リーディング」でした。



ラジオデイズにて町山智浩の映画Q&A 2014春が¥500にて発売中。
こちらの記事はところどころ省略しながら書きました。
町山さん&映画好きなら¥500で腹一杯楽しめますよ。
http://www.radiodays.jp/item_set/show/732

座頭魄市orejiru at 23:39│コメント(5)トラックバック(0)映画  | このエントリーをはてなブックマークに追加

2014年03月28日




単行本は(物理的な意味で)読みづらいので文庫版がいいかもしれません。コスト面でも文庫版で買うのが最安値です。





僕はK-1初期(ピーターアーツとかアンディフグとか)の頃に格闘技にはまって、PRIDE(桜庭和志やグレイシーやノゲイラ)などもよく見ていたのですが、曙がボブサップと試合したあたりで興醒めしてしまって、以降は格闘技は見てません。はまっていた時でも、格闘技関連本などを手に取って知識を深めるほどではありませんでしたから、典型的な「にわか」ファンにあたります。

ただ、僕のような「にわか」が一番、層としては厚いと思うんですよね。

ですから「木村政彦」が誰なのかも分からない人って意外と多いんじゃないかなと思います。そしてそんな「にわか」ファンにとって、このノンフィクションはK-1やPRIDEの全盛期と比べても見劣りしない、どころか間違いなくあの頃の熱狂以上のものがあります。

格闘技ファンのあいだでは伝説となっている木村政彦vs力道山の遺恨試合動画はこちら。



僕は本書を読む前に、こちらの動画を鑑賞してみたのですが全くピンときませんでした。

「木村政彦」という格闘技界最強の男がいた。そして現在もこれからも「木村政彦」を超える格闘家は出ない。

この本を薦められる時にそう言われたんですよ。それで動画を見ると、どうしても疑問が残るんですよね。言うほど強い人だったのかなあって。思い出補正がかけられた昭和与太モノじゃないかって。でも結果的には、それくらいの少し冷めた状態から読んだのがよかったのかもしれません。

はじめ僕は「木村政彦」がいかにガチンコでは強かったのかを、延々と力説してゆく「木村政彦」擁護本かと思ったんです。同時にこれだけ分厚いのだから思わぬ方向に話が転がって、そこに壮大なドラマがあるんだろうな、とも。

実際、こんなにおもしろい本だとは、想定の範囲外でした。柔道史、プロレス史、総合格闘技から昭和史まで。「木村政彦」vs「力道山」の試合はマスコミや政治家からヤクザに至るまで、超大物たちを裏で巻き込んだ代理戦争だったんですよ。

この壮大さを味わうには「まとめ」のような文章ではどうしても伝わらないでしょうし、著者の増田俊也さんが18年かけて調べ尽くした圧倒的な資料が必要です。18年ですよ。出自のはっきりした史実から出自不明はふるいにかけ、裏を取れるものは地道に取っていくその執念。それもこれも増田俊也さんが慕う「木村政彦」の汚名を返上し、光を当てたいがために。相撲じゃ関脇止まりの「力道山」なんかに「木村政彦」先生が負けるはずはないんだと。「鬼の柔道」木村政彦を「鬼の文章」で現代に蘇らせる増田俊也。

そして僕もまさかでしたが、この本めっちゃ泣けます。

なんていえばいいんでしょうか。
戦争っていろんな、ほんとうにいろんな事を狂わせるんだなって。
こんな一言で終わらせてはいけない事ではあるんですけども。この感情はうまく言葉にできません。

まだ読んでいない人は是非読んでもらいたい一冊。
ちなみにkindle版もあるのですが、オススメしません。
理由は、僕はkindleで買ったあと、読み終わって紙で買い直したからです。なんでですかね。本棚という墓地に、墓標として置いておきたかったからですかね。


サイドストーリ—としてこちらの本もオススメ。
疵―花形敬とその時代
http://takushi.blog.jp/archives/51935465.html
同時代に生きた怪物です。

また、会社の格闘技好きに「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」の感想を話したところ、下記の本をオススメされました。随分とまた変わった角度からの薦め。こういう斜め後方からの推薦本は興奮しますね。読んでみるつもりです。



さいごに、僕は本書を読んで思ったのは、「剣道」もまた相当でかいストーリーを含んでるはずですよね。警察の利権も絡んでるでしょうし。「剣道」でこういう本ないんでしょうかね。おもしろい剣道本知ってる方いらっしゃいましたら是非おしえてください。

座頭魄市orejiru at 19:08│コメント(1)トラックバック(0)  | このエントリーをはてなブックマークに追加

2014年03月22日

the_secret_life_of_walter_mitty_main_large

2014年劇場鑑賞9本目。

観賞後のいま「LIFE」のメインテーマ曲がずっとあたまの中に流れています。José González(ホセ・ゴンザレス)の「Step Out」という曲です。



パァーンと視界がひらける感じがかっこいいですよね。HIPHOPのトラックにもいいんじゃないでしょうか。

映画の内容的にも、観賞後はいつもと違う道で帰ってみたくなったり、気になってたけど入りづらかったお店に飛び込んでみたりと、ルーティンから外れてみたくなるような、スゴくひらけた映画でした。

映画の主人公ベン・スティラーが演じるウォルターは、雑誌「LIFE」の写真管理部で働く冴えない男。空想癖があっていつもぼんやりしてるんです。会話中でさえ、映画のなかに飛び込んだかのような、劇的に展開していく世界を空想してしまうんですね。
いつも心ここにあらずなウォルターを周囲は、変わった人として見ているんです。

臆病者でもあって、ウォルターは社内の女性シェリルに想いをよせているのですが、話し掛けることも出来ないんですね。で、シェリルが婚活サイトに会員登録しているのを発見するんです。それからウェブ上でFacebookのpokeにあたる挨拶をしようとするのですが、なかなか押せない。何度も押そうとするんですが、手が震えてポチることができないんです。そのシーンがしばらく続いたあと、意を決して押すんですがエラーが出ちゃうんですよ。わけわからんので婚活サイトに問い合わせてみると、プロフィール欄に空白が多すぎるからって言われるんです。

ウォルター君、特筆すべきことが何もないんです。海外旅行の経験もないですし。

ネット+匿名でしか力を出せない“おまいら”ですよ。


それである日、いつものように出勤すると「LIFE」誌の休刊が決まったことを告げられるんですね。念のため言っておきますが、この「LIFE」はアメリカで実際に発行されていた雑誌です。写真が中心のグラフ雑誌で、有名な写真家といえば初めに思いつく「ロバート・キャパ」も「LIFE」から世に出ました。1936年創刊。2007年まで素晴らしい写真を世に出し続けました。そして2008年からはWEBでこれまでのLIFEの写真が検索可能となりました。歴史的写真が多いので飽きませんよ。
http://images.google.com/hosted/life

考えてみると、「LIFE」勤務の写真管理部だなんて勝ち組すぎるだろって話ですよね。

話を戻すと「LIFE」誌の休刊が決まったことを告げられて、それで「LIFE」誌のラストを飾る表紙の写真にこれを使ってくれって写真家からネガが届くんです。

「この25番のネガを表紙に」
lifemovie1

25番だけが見当たらないんですよ。

困ったウォルターは前後の写真を手掛かりにカメラマンを捜す旅に出るんです。海外旅行の経験もなかった彼がグリーンランド、アイスランド、ヒマラヤへ。その奇想天外な旅がウォルターの人生を変えるんですね。

空想の旅でウォルターが見ていた景色は、現実の旅で広がる、ほんとうの景色に変わっていくんです。これは圧倒的な美しさでした。空想の旅はCGを多様しているんですけれども、現実の旅ではCGは使わず現実の映像なんですね。当たり前のこと言ってますけど。けれどね、CGより強いんですよ、画力が。

そして、これまで「LIFE」に掲載された写真の数々が、シーンの随所に登場します。

そして25番のネガにはなにが写っていたのか。
是非、自分の目で確かめてください。


感想とは少しずれてしまうのですが、この映画を見て僕は少し前のこの話題を思い出しました。

NHK「クローズアップ現代」2014年1月14日(火)放送「ポエム化社会」
http://www.dailymotion.com/video/x1a25oa_news

いま日本はポエムが蔓延していると。
マンションポエムなんてのは最たる例でしょうかね。
“「天空に舞い踊る星々のトレモロ。人々の営みを物語る地上に散りばめられた灯火のロマネスク。あるいは、早朝のまどろみから朝日に洗われつつ姿を現す都会のエクリチュール」(レーベン北千住ルミレイズタワー)”
http://nikkan-spa.jp/507075

都知事選で話題になった家入かずまさんなんてのは、twitter見てる限りでは既にポエマーでしかない無双状態ですし。
https://twitter.com/hbkr

で、「LIFE」ってスゴく、ポエムっぽいんですよ。★7と評価を下げた一番の原因です。ポエム化社会というのは日本だけの問題ではなくて、世界全体がポエム化してるのかもしれないと感じました。
共感を多く集めることが「力」であるのは、昔から変わらぬことではあります。ですが、メッセージを抽象化して薄めてまで、共感を集めやすくするのは安直すぎやしないか。

そして僕らも、耳当たりのいいメッセージ、抽象化されたメッセージにはもっと疑問を持つべきだ。

座頭魄市orejiru at 00:01│コメント(0)トラックバック(0)映画  | このエントリーをはてなブックマークに追加

2014年03月19日

マンガの大ヒットから映画化、そして来月に公開される「テルマエ・ロマエⅡ」と、いまや国民的人気マンガともいえる「テルマエ・ロマエ」。

その作者ヤマザキマリさんの著書「男性論」を読みました(Kindle版もあります)。

男性論 ECCE HOMO
ヤマザキマリ
文藝春秋
2014-02-21



ヤマザキマリさんがどんな人なのか全く知らなかったのですが、このお方、かなりキテおりました。

10代早々に国内でサブカルチャーをこじらせたのち、イタリアへ渡って西洋文化をこじらせるという、こじらせミクスチャラー。
“女版・水木しげるになりたい”

このはっきりと明確なビジョンを持っておられるヤマザキマリさんを、僕はスゴく好きになりました。

北海道生まれ「ガロ」育ち。

ミッション系女子校時代では、髪が一定以上の長さとなる場合には三つ編みにしなければいけないという校則に反発し、細い三つ編みをたくさん編んでドレッドスタイルで登校したそうです。

当然シスターから注意を受けたマリさん。

ひるがえって髪の毛をばっさり、坊主頭で登校したのだとか。

そんなヤマザキマリさんに耐えかねて、学校のシスターも「無理にこの高校にいる必要はないのよ」とやさしく突き放します。

ヤマザキマリ。16歳。高校中退。

そして単身イタリアへ。


ヤマザキマリさんの母親も勇気ありますよね。16歳ですよ。娘の単身イタリア行きに進んで背中を押してあげる勇気。僕も息子にそれが出来るかと自分自身に問うてみましたが、ねぇ。スゴいです。

旅の醍醐味についても語られていて、とても印象的だったので引用させていただきます。
わたしは実際、テレビ番組で見た青海チベット鉄道にカーッとあこがれが募って、高山鉄道に乗りに行ったことがあります。夢にまでみた景色に身をおき、「これが夢とロマンの青海鉄道だわ!」と、嬉々として列車に乗りこんだつぎの瞬間、もう酸素マスクを口に当てていました。頭が痛くて、吐き気がして、景色どころではなくなった。高山病です。「こんなこと、テレビじゃ言ってなかった!」と憤っても、泣いても、もう仕方がない。実地に体験するとは、こういうこと。(中略)テレビやネットで知ったことが、すべてではない。ときに、高山病になってください。他人の体臭にうんざりしてください。スムーズにいかないコミュニケーションに泣いてください。

それが世界だから。


そういえば結婚してからは一人旅してないことに気がついて、僕はすこし反省をしました。


「男性論」にはいつ触れるんだって話ですけど、実は本書では「男性論」という体裁は取っているといえば取っていますが、タイトル買いをすると驚くはずです。この本は現代、特に日本社会で息苦しさを感じている人にとっての、生き方の「指南書」となっています。

ほんとうに元気になれる本です。
僕もこの本を読み終わって、なんだか元気が湧いてきました。明日からもまたがんばろうと思えるオススメエッセイでした。

まずは近々で九州ひとり旅したかったので実現させようと思います。

座頭魄市orejiru at 23:47│コメント(0)トラックバック(0)  | このエントリーをはてなブックマークに追加

2014年03月16日

96229

吉田恵輔監督作品は今年2本目の鑑賞となります。
※1本目http://takushi.blog.jp/archives/51978120.html

吉田恵輔監督は、若手監督のなかでもあたま2.3個抜けて撮り方が巧いです。下積み時代を憧れの塚本晋也監督の下で過ごしていて、「バレット・バレエ」「六月の蛇」「ヴィタール」の照明を担当していたんですね。塚本晋也監督といえば「鉄男」が有名ですが、国内の評価よりも海外から熱烈に支持されている監督さんです。「パルプフィクション」のタランティーノ監督や、「ブラックスワン」のダーレン・アロノフスキー監督が塚本晋也監督マニアなのは有名な話です。

素晴らしい監督の技術を、20代の前半から側で見ていたその経験が、吉田恵輔の映画にもしっかり反映されていて安定感があるんですよね。

そして、これが一番の彼の武器なんですが、吉田恵輔さんはロリコンなんですね。ロリコンでしかもギャンブル好き。これまでずっとダメニンゲンと女子学生ばっかり撮ってきてるんですけども、特に女の子を魅力的に撮るのがめちゃくちゃうまいんですよ。これは断言できます。女子学生モノなら吉田恵輔が暫定トップです。女の子には、かわいい以上エロ未満の絶対領域があるじゃないですか。そこをずっとキープしてるんですよね。どんなテストでも必ず77点を取るスゴさ。「モテキ」の長澤まさみに惚れた人は全国でかなりの数にのぼると思うんですけど、でもあの映画では僅かに、エロに寄ってますよね。点数そのものは高いんです。けれど僕はあれがマイナスなんです。そういう話なら吉田恵輔作品を見てみるといいですよ。これぞ絶対領域です。性的な意味で女の子が好きな人には越えられない領域があるんです。

さて、新作の「銀の匙」は大人気の漫画が原作なのですが、僕は未読です。ですから、原作と比較することが出来ませんので、あくまで映画としての感想となるのですが。

今回で吉田恵輔さんは映画7作品目となります。7作目にして初めてオリジナルから離れました。これまでオリジナル脚本にこだわっていたわけではなくて、何度か原作ありきの話もあったそうです。けれどなんやかんやで流れてしまっていたのだとか。

で、肝心の吉田恵輔らしさはどうかというと、今回のヒロインも女子高生。そして限りなく吉田恵輔っぽい女の子です。御影アキちゃんって名前なんですが、原作でもこんな吉田恵輔ライクな設定なんでしょうか。

あらすじをざっくり紹介しますと、八軒勇吾は中学受験で失敗して、将来の展望も失っちゃうんですね。それで、なんとなくラクそうな感じのある北海道の大蝦夷農業高校へ入学したいと両親に言うんですが、父親が厳しい人でして。「おまえは結局逃げるのか」って。「もういい、おまえには何も期待しない」と、図星っちゃ図星なんですけど、勇吾を突き放すんです。で、結局は大蝦夷農業高校に決めるんです。全寮制ですから、厳しい父親と離れて暮らすことも出来ますし。

夢もなにもないまま入学してみると、同級生たちは将来の展望がはっきりしてるんですよ。これは実際にそうなんだろうと思うのですが、北海道で農業高校に入学する人のほとんど、酪農経営してる家の子なんですよね。
ですから、高校を卒業したら家を継ぐなりなんなり明確に進路が決まっているんですよ。勇吾からすれば、卒業後の進路に悩まなくてもいいなんて気楽なもんだってなるんですよ。16歳ですからそんな考えになってしまうのも当然な気はしますよね。

でも、継ぐ立場には継ぐ立場の、どうにもならない辛さもあるんですよね。夢もない。将来なにをするか全く決められない。そんな勇吾が、仲間と共に酪農を通して自分をみつけていく物語です。

ヒロインのアキちゃんが人懐っこい性格でして、そんなアキちゃんの押しに負けて勇吾は馬術部に入るんです。その馬術部で文化祭にばんえい競馬をやる事になるんです。その文化祭ばんえい競馬が、この映画のクライマックスなんですね。この映画の作りはスポ根要素が入っているんですよ。これ、原作上そうなんでしょうけども。

あくまで吉田恵輔作品としての感想ですが、このスポ根要素が吉田恵輔らしさを殺していたと思います。
実際、別の映画のときにインタビューでスポ根が苦手だという発言をしていて、自覚もしているようなんですが。音楽の乗せかたが際立って冷めました。

そしてもう一点マイナスポイントとして、愛すべきダメな人間が出てこないところ。これは人気の漫画が原作ですし、吉田恵輔風ダメ人間を登場させるのが難しかったのでしょう。

結果的に、物語は面白いし、映画の撮り方も巧いし、さすが吉田恵輔監督だなと思ったのは事実ですが、同時に、吉田恵輔作品を鑑賞する時に自分が無意識に求めているものはなにかがわかりました。そしてそれが「銀の匙」にはなかったのも事実です。

ただし、今回も女子高生を完璧に77点で撮ったこの才能は、もっともっと評価されるべきだと強く思います。まだまだ露出の少ない監督さんですが、あと数本も撮ればドーンと注目もされるはずです。

みなさん、まずは「さんかく」を観ましょう。
はじめラブロマンスなかホラー、おわりにさらにひねってくる傑作です。
さんかく 特別版(2枚組) [DVD]
高岡 蒼甫
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-11-03



座頭魄市orejiru at 01:26│コメント(0)トラックバック(0)映画  | このエントリーをはてなブックマークに追加
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